大乗仏教とはなにか― 仏教のもう一つの大きな流れを、やさしく解説

「仏教に興味はあるけれど、正直よくわからない」
「大乗仏教と小乗仏教(上座部仏教)の違いって何?」

こうした疑問を持つ方は、とても多いと思います。実は、日本で暮らしている私たちが日常的に触れている仏教の多くは大乗仏教です。

この記事では、

  • 大乗仏教はいつ、どこで生まれたのか
  • どんな考え方を大切にしているのか
  • 上座部仏教とは何が違うのか
  • 日本や中国でどう発展したのか

といったポイントを、仏教初心者の方にもわかる言葉で解説していきます。

この記事を読み終えたとき、「なるほど、大乗仏教ってそういうものなんだ」そして「もう少し詳しく知りたいな」と思ってもらえたら、これ以上うれしいことはありません。

そもそも大乗仏教とは?

大乗仏教(だいじょうぶっきょう)とは、**「すべての人を救うことを目指す仏教」**と一言でまとめることができます。

仏教は、紀元前5世紀ごろ、インドで釈迦(ゴータマ・シッダールタ)によって始まりました。
しかし、釈迦が亡くなったあと、仏教は一つの形のまま固定されたわけではありません。

時代や地域、人々の価値観の変化とともに、仏教の教えはさまざまな解釈や実践の形に分かれていきました。

その中で生まれた大きな潮流の一つが大乗仏教です。

大乗仏教の誕生時期と背景

誕生したのはいつ?

大乗仏教が成立したのは、
紀元前1世紀〜紀元後1世紀ごろのインドと考えられています。

釈迦の入滅から、数百年が経った時代です。

この頃のインド社会では、

  • 商業の発展
  • 都市の成長
  • 在家信者(出家しない一般の人々)の増加

といった変化が起きていました。

なぜ大乗仏教が生まれたのか?

初期仏教では、修行の中心は出家者でした。厳しい戒律を守り、修行に専念し、悟り(解脱)を目指す生き方です。

しかし、

  • 家族を持ち
  • 仕事をし
  • 社会の中で生きる

一般の人々にとって、それは簡単な道ではありません。

そこで次第に、

「出家しなくても救われる道はないのか」
「自分だけでなく、みんなで悟りを目指せないのか」

という思想が育っていきます。

こうした流れの中で誕生したのが、大乗仏教でした。

「大乗」という言葉の意味

「大乗」とは、サンスクリット語の**マハーヤーナ(Mahāyāna)**の漢訳です。

  • 大(大きい)
  • 乗(乗り物)

つまり、「多くの人を乗せて悟りへ運ぶ大きな乗り物」という意味があります。

これに対して、初期仏教の流れは「小乗(しょうじょう)」と呼ばれることもありました
(※現在では差別的な響きを避け、「上座部仏教」と呼ぶのが一般的です)。

大乗仏教の最大の特徴:菩薩の思想

菩薩とは何者か?

大乗仏教を理解する上で欠かせない存在が、**菩薩(ぼさつ)**です。

菩薩とは、

自ら悟りを目指しつつ、
それ以上に、他者を救うことを誓った存在

です。

大乗仏教では、

  • 自分だけが悟ればいい
  • 早く解脱できればそれでいい

とは考えません。

「すべての衆生が救われるまで、自分は仏にならない」そう誓う姿勢こそが、理想とされます。

有名な菩薩たち

日本でもおなじみの仏さまの多くは、実は菩薩です。

  • 観音菩薩(観世音菩薩)
  • 地蔵菩薩
  • 文殊菩薩
  • 弥勒菩薩

お寺や仏像で見かけるこれらの存在は、大乗仏教の思想を象徴する存在だと言えるでしょう。

重要視される大乗仏教の仏典

大乗仏教では、初期仏教の経典に加えて、多くの新しい仏典が生み出されました。

代表的な大乗仏典

初心者の方が名前だけでも知っておくとよい仏典を挙げます。

  • 般若経(はんにゃきょう)
    • 「空(くう)」の思想を説く
    • 『般若心経』はそのエッセンス
  • 法華経(ほけきょう)
    • すべての人が仏になれると説く
    • 日本仏教に大きな影響
  • 華厳経(けごんきょう)
    • 宇宙全体の相互関係を壮大に描く
  • 阿弥陀経・無量寿経
    • 浄土信仰の中心となる経典

これらの経典は、中国や日本で翻訳・解釈され、独自の仏教文化を育てていきました。

龍樹(ナーガールジュナ)という思想家

大乗仏教を理論化した人物

大乗仏教の思想を語る上で、**龍樹(りゅうじゅ/ナーガールジュナ)**は欠かせません。

彼は、2〜3世紀ごろのインドの僧・哲学者です。

「空」を徹底的に考え抜いた人

龍樹は、「空(くう)」という考え方を徹底的に理論化しました。

  • すべてのものは、固定した実体を持たない
  • すべては関係性の中で成り立っている

この思想は、後の大乗仏教全体の基礎となり、中国や日本の仏教哲学にも深く影響を与えました。

日本の仏教が、どこか哲学的で思索的なのは、この龍樹の影響が非常に大きいと言われています。

大乗仏教と上座部仏教の違い

大乗仏教はどの国・地域に広まったのか

大乗仏教は、インドから北・東アジアへと伝わっていきました。

主な地域

  • 中国
  • 朝鮮半島
  • 日本
  • チベット(※チベット仏教は大乗仏教+密教)

一方、

  • タイ
  • ミャンマー
  • スリランカ

などの東南アジアでは、上座部仏教が主流です。

中国での大乗仏教の発展

中国に仏教が伝わったのは、1〜2世紀ごろ。

中国では、

  • 儒教
  • 道教

といった既存思想と出会い、仏教は独自の変化を遂げていきます。

この中で生まれたのが、

  • 天台宗
  • 華厳宗
  • 禅宗

といった中国仏教の諸宗派です。

日本での大乗仏教の発展

日本に仏教が伝来したのは、6世紀。

日本で成立した仏教宗派のほぼすべてが大乗仏教です。

  • 天台宗
  • 真言宗
  • 浄土宗
  • 浄土真宗
  • 禅宗
  • 日蓮宗

いずれも、大乗仏教の経典と思想を基盤としています。

日本人の、

  • 先祖供養
  • 他者への思いやり
  • 「みんなで救われる」という感覚

は、大乗仏教の影響を強く受けていると言えるでしょう。

まとめ:大乗仏教とは「ひらかれた仏教」

大乗仏教を一言で表すなら、「ひらかれた仏教」です。

  • 出家者だけでなく、在家の人も救われる
  • 自分だけでなく、他者の幸福を重んじる
  • 哲学的で、柔軟で、多様

だからこそ、大乗仏教はインドを超え、中国・日本へと根づいていきました。

もしこの記事を読んで、

  • 菩薩の思想が気になった
  • 龍樹の「空」をもっと知りたくなった
  • 日本仏教の宗派の違いを深掘りしたくなった

そう感じたなら、あなたはすでに
大乗仏教の世界への第一歩を踏み出しています。

仏教は、知れば知るほど奥深く、
そして現代の生き方にも多くのヒントを与えてくれます。

次はぜひ、
一つの経典、一人の思想家、一つの宗派に焦点を当てて、さらに深く覗いてみてください。

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