
「仏教」と聞いて、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか。お寺、坐禅、お経、あるいは「悟り」や「無常」という言葉かもしれません。実は、私たちが普段「仏教」とひとまとめにして呼んでいるものの中には、いくつかの大きな流れがあります。その代表的な区分が上座部仏教と大乗仏教です。
この記事では、その中でも「上座部仏教とは何か」をテーマに、
- いつ、どこで生まれ
- どんな教えを大切にし
- どの地域で今も実践されているのか
を、仏教初心者の方にも分かるように解説していきます。
上座部仏教とは?ひとことで言うと
上座部仏教とは、お釈迦さま(ゴータマ・ブッダ)の教えを、できるだけ原始的な形で伝えようとする仏教の流れです。
サンスクリット語では「テーラヴァーダ(Theravāda)」と呼ばれ、日本語では「長老の教え」「古老の教え」といった意味になります。
ポイントは次の3つです。
- 出家修行を重視する
- 個人の修行と悟りを中心に据える
- 仏陀の言葉を忠実に守ろうとする姿勢
「ストイック」「理論的」「実践重視」という印象を持つ人も多いでしょう。
上座部仏教の誕生時期とインドでの成立
仏教誕生の地はインド
仏教そのものは、紀元前5世紀ごろ、インドで誕生しました。釈迦(ブッダ)は、苦しみの原因とその克服方法を探究し、「悟り」に至ったとされています。釈迦の死後、弟子たちは教えをまとめ、口伝で伝えていきました。しかし、時代が進むにつれて「教えの解釈」や「修行のあり方」をめぐって意見の違いが生まれます。
分裂の中で形成された上座部仏教
紀元前3世紀ごろ、仏教教団は複数の部派に分かれました。その中で、保守的な立場を取り、古い教えを守ろうとした一派が、のちの上座部仏教につながっていきます。インドでは次第に仏教自体が衰退しますが、この流れはスリランカへと伝えられ、そこで体系的に保存されました。
重要視される仏典 ― パーリ仏典
上座部仏教を理解する上で欠かせないのが、パーリ仏典です。
パーリ語とは?
パーリ語は、古代インドの言葉に近い言語で、上座部仏教の聖典が記されている言語です。サンスクリット語よりも口語に近く、「釈迦の言葉に近い」と考えられています。
三蔵(ティピタカ)
パーリ仏典は、次の三つから構成されています。
- 経蔵:釈迦の説法
- 律蔵:僧侶の生活規律
- 論蔵:教えを理論的に整理したもの
特に経蔵は、瞑想や日常の気づきに直結する内容が多く、現代人にも示唆に富んでいます。
大乗仏教と上座部仏教の違い
上座部仏教はどこで信仰されているのか
現在、上座部仏教が主流の地域は次の国々です。
- スリランカ
- タイ
- ミャンマー
- カンボジア
- ラオス
これらの地域では、僧侶の托鉢や瞑想修行が日常風景として根付いています。一方、日本や中国では大乗仏教が主流となり、上座部仏教は歴史的にはあまり広まりませんでした。
日本における上座部仏教 ― アルボムッレ・スマナサーラ
日本で上座部仏教を語るとき、欠かせない人物がいます。それが、アルボムッレ・スマナサーラ長老です。
スリランカ出身の僧侶で、日本語で多くの著作を発表し、
- 瞑想
- 仏教を「生き方」として理解する視点
- 怒りや不安との向き合い方
を、非常に分かりやすく伝えてきました。
彼の著書を通じて、「上座部仏教=厳しい修行」ではなく、日常の苦しみを観察し、手放していく知恵として仏教に触れた人も多いはずです。
上座部仏教が現代人に響く理由
上座部仏教の教えは、神秘的というよりも、観察と実践を重視します。
- 苦しみはどこから生まれるのか
- 感情はどのように起こり、消えていくのか
- 「自分」と思っているものは本当に固定的なのか
こうした問いは、心理学やマインドフルネスとも深く通じています。だからこそ、現代のストレス社会において、上座部仏教は静かに注目されているのです。
まとめ:上座部仏教は「原点に立ち返る仏教」
上座部仏教は、
- インドで生まれ
- 古い仏典を重視し
- 東南アジアで今も生きた宗教として実践されている
仏教の原点とも言える流れです。
日本や中国の大乗仏教に親しんできた私たちにとって、上座部仏教は少し異質に映るかもしれません。しかし、その違いこそが、仏教理解を深める入口になります。
もしこの記事を読んで、「もう少し詳しく知りたい」「実際の教えに触れてみたい」と思ったなら、それがこの文章のゴールです。
仏教は、知識として学ぶだけでなく、生き方として試してみるもの。
上座部仏教は、そのための静かで確かな道筋を示してくれます。


